取得時効を原因とする所有権移転登記
みなさんこんにちは。
司法書士の近藤です。
当事務所は、他の司法書士があまりやらないであろうマイナーな業務にも積極的に取り組んでいます。
例えば、熟慮期間である「3ヶ月経過後の相続放棄」、財産財産を責任の限度として相続する「限定承認」、また最近、話題となっており、最新の相続対策である「民事信託(家族信託)」など他の事務所があまりやりたがらない業務も積極的に取り組んでいます。
理由としては、単に相続の件数が多いから、依頼を受ける業務の種類も必然的に増えるということもありますが、それ以上に自分達の勉強になるからです。
新たな業務に取り組むことで新たな知識・経験を得ることができ、ひいては、自分たちの成長につながると実感できるからです。
当然ですが、自分達の成長のために、ご依頼いただいた業務を疎かにすることはできません。
本日ご紹介するのは、相続とは少し異なる分野になりますが、これまたマイナーな分野である、不動産の所有権を時効により取得する場合の登記手続きについてです。
登記手続きとしては、まず大きく分けて、確定判決等により登記権利者が単独申請する場合と、登記権利者および登記義務者が共同申請する場合に分けられます。
登記申請書に沿ってご説明いたします。
まず、登記の目的は「所有権移転」になります。
不動産の所有権を時効により取得する場合、時効が原始取得であることから、最初の所有権の登記である所有権保存登記によるべきではないかという考えもありますが、登記手続き上、所有権移転登記という形をとります。
登記権利者は、時効により所有権を取得する者、登記義務者は、その反射的効果として、所有権を失う者になります。
登記原因は「時効取得」であり、登記原因日付は「占有開始日」となります。
時効取得が占有開始日に遡って所有権を取得する原始取得であるからです。
占有開始日については、10年もしくは20年以上前のことになるので、記憶が明確でないケースが多いです。この点、確定判決等により単独申請する場合は、年月日不詳時効取得として申請することが可能です(一方で共同申請の場合は不可)。
また、添付書類として、共通するものが登記原因証明情報と登記権利者の住民票、共同申請の場合は、権利書(登記済証書または登記識別情報通知)と登記義務者の印鑑証明書(3ヶ月以内)、他には、司法書士に依頼する場合の申請人の委任状になります。
この中で特に重要なのが登記原因証明情報です。
登記原因証明情報の登記原因とは、登記の原因となる事実又は法律行為のことです(不動産登記法5条2項括弧書)。
取得時効が成立するための事実(要件事実)についてですが、
第一に、長期取得時効の場合、「平穏に、かつ、公然と、他人の物を、所有の意思をもって、20年間占有すること」です。
所有の意思については、判例は「主観的なものではなく、占有取得の際の権限の性質、すなわち、占有の取得の根拠や事情に従い客観的に定めるもの」としています(最判昭和45年6月18日)。
占有については、判例は「一定期間の土地の占有を継続したというためには、その部分につき、客観的に明確な程度に排他的な支配状態を続けなければならない」としています(最判昭和46年3月30日)。
また、占有継続の20年間については、判例によると、自己の占有のみでは足りないときは、前主の占有を継続することができる(その場合、占有の瑕疵も承継する)、時効期間の起算点は、時効の基礎である占有(自主占有)の開始時点であって、任意の時期に選択することができない、とされています。
第二に、短期取得時効の場合、長期取得時効と異なる点として、「占有開始の時に善意かつ過失がないこと」「10年間占有すること」となっています。
善意であることは推定されていますが、過失がないことについては推定されないため、短期取得時効の成立を主張する者がこれを立証しなければなりません(登記上はかなりハードルが高いものと考えられます)。
なお、取得時効を原因とする所有権移転登記の登録免許税は、土地の評価額の1000分の20となります。
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